秋の夜長なので、僕がチンサムな話をしたいと思う。いつも書いてるアメコミネタじゃ僕が飽きるので、ちょっと趣向を変えてみた
暇してたり、タバコタイム、チルってるときにでも見てくれ。
・あれは工場勤務の時じゃった…
長い勤務時間をできる限り短くしようと思って、喫煙所に向かっていると携帯が爆音で鳴る。
「だれじゃぁ!携帯の電源をきっとけやぁ!!」
着信音よりうるさい上司の怒鳴り声が横殴り。取り敢えずスルーし、現場を抜けて携帯を手に取ると母親からの着信だった。
何か急用かと思い、スピーカーに耳を当てると母親が着信音よりうるさい声で
「〇〇ッ!あのッ!!み、みずがァッ!!」
慌てすぎて要領を得ないので一旦落ち着かせてから話を聞くと割と大惨事だった。
・被害者は母親、巻き込まれたのは階下の人
それは家事が落ち着いて、一服している時だった。
朝ごはんを食べて、掃除機で家を駆け回り、四人家族の洗濯物を一人で放り込む。毎日目まぐるしく進む日々に、主婦の一服は欠かせない。
※丁度その時母親がいた場所である。
ゴウンゴウンと洗濯機の音が遠く聞こえる中、居間でゆっくりコーヒーを楽しむのが母のルーティン。その一時の楽しみに割り込むようにブザーが鳴った。
居間から玄関に向かうところでドアがある。ペタペタ歩いてドアノブを回して押すと違和感に気付く。ドアノブは回るのにドア本体が開かない。まるで抑えられてるような感じだったそうだ。
バレーボールで鹿児島県有数の高校にスポーツ推薦で合格。五十を越えて尚ママさんバレーに勤しむ母の膂力は伊達ではない。
力の限り押せば動く。動くなら開く。母親渾身の力を足に込めて押すと、扉はゆっくりと開いていく。まるでアクシズショックだ。しかし、この時点で母親はある程度の予測がついていた。
少しづつ見えてくる廊下から、家の中でせせらぎが聞こえる。足に濡れた感触がして、下を向くとドアの開いた小さな隙間から水が流れ出ていた。家の中で。
不意にドアが軽くなって勢いよく開き、廊下に倒れ込んだ。すると何故か水しぶきがあがる。
もう既にそこは廊下ではなく川になっていた。
・ごめんよ…
見慣れたフローリング材の廊下全体にはっている水は居間に向かって流れ、玄関に向かっている。
そこにあった筈の猫のトイレ、新聞紙、スリッパは全て濁流に流されて川下にいる母親の周りに寄せ集まっていた。
混乱した母親はブザーがなっているにも関わらず俺に電話をかけてきた。
電話越しで要領はえなかったが恐らく水源は水場周りだと思い、僕は洗濯機か風呂場が稼働しているかと聞く。
すると廊下の中央にある水場から、止めようもないほど水が溢れている。
母親は廊下をバシャバシャと音を立てて走り抜く。すると洗濯機下、排水口から止めどなく水が溢れていた。
一先ず洗濯機の動きを止めて蛇口を閉め、電話を切り、玄関を開けた。外に立っていたのは2階に住んでいるずぶ濡れのご近所さんだった。
・サマータイムアゲイン
久しぶりに部屋の模様替えをしようとしていたご近所さんはテレビを廊下に運んでいると、すると肩に水滴が落ちてきた。
見上げると天井から雨が降っている。雨はやがて鉄砲水になり、滝に変わったそうだ。
ご近所さんもまさか日常の中、家に滝が生まれるとは思わなかっただろう。可哀相に。
滝行を終え、水道管でも破裂したのかと心配し上の階に来たということだ。
だが玄関を開くと川が生まれていたのだからなんのことはない。一緒に後始末をして帰ったそうだ。
・原因究明
まずそもそもで原因はなんだったのか、その答えは保険会社に派遣された水道トラブルの対応業者が究明した。
それは排水口に小銭が溜まっていたからだった。ポケットに入れていた小銭が洗濯機から抜け、排水口に貯金をしていたことになる(987円貯まっていたそうだ。)
僕は馬鹿なので「そんな滝になるほどかぁ〜?」と疑り深く聞いてみたら、業者からキレ気味に説明してくれた。
洗濯機の工程は「洗い→排水・脱水→すすぎ→排水・脱水→すすぎ→排水・脱水」。水を使う回数は任意に選べるが、うちはデフォなので計3回。
9キログラムの洗濯機を使っているので、一度洗濯機を回せば約100L使うことになる。大体2リットルのペットボトル50本分。
ゲリラ豪雨ですら一時間で80ミリだから、ご近所さんが襲ったのは約40分未満で1億ミリオーバー。ほとんど災害だ。
頭上から街一つは壊滅させる威力を体験したことになる。たった987円で。
・母親が軽いトラウマ
被害額はおぞましいが、私財に関しては保険がおりたのでなんとかなった。
以後、母親は洗濯機が回ると落ち着かなくなってしまうトラウマを与えてしまった。ごめんね…反省してるよ…
こんな感じのお話、
まぁ時間つぶしにでもなれば幸いです。